位置・なりたち
やんばる地域の範囲
漢字で「山原」と書いて「やんばる」。やんばるは「山々が連なり、森が広がる地域」という意味を持ち、沖縄島北部一帯を指す言葉です。亜熱帯の豊かな森が広がる地域という意味で「やんばる」と呼べる範囲はしだいに狭まり、現在では名護市以北が一般的な「やんばる」の概念となっています。
その中でも、特にヤンバルクイナやノグチゲラなどをはじめとする固有種などが多く生息・生育し、比較的健全な状態のまとまった森が残るのは、沖縄島北部の3村国頭村、大宜味村、東村となっています。ここでは主に、北部3村を中心とした地域を「やんばる地域」とみなしています。
やんばるの位置と地形
九州南部から台湾にいたる弓状につらなる島々を琉球弧と呼びます。沖縄島はこの琉球弧の中ほどに位置しており、南北110km、東西10kmの細長い島です。沖縄島北部のやんばるは、特異な成り立ちと生物相を持つ琉球弧の一つです。
やんばるは意外に狭い地域で、南北約32㎞、東西約12㎞の範囲の中に、多くの固有種を含むたくさんの生きものがくらしています。最も陸地の幅が狭くなる、大宜味村塩屋-東村平良を結んだ直線距離は、わずか約6kmです。
やんばるは、西銘岳 (420.1m)、与那覇岳(503.0m)、伊湯岳(446.2m)などをはじめとする標高400m以上の山地が、北東から南西方向に沿って島の中央部に発達し脊梁山地を形成しています。また、多くの河川があり、中南部の都市部の水がめとしても重要な役割を担っています。
琉球弧のダイナミックな地史
琉球列島はかつて大陸の一部でしたが、地盤の沈降に伴う東シナ海や諸々の海峡の成立によって切り離され、徐々に島々へと移行していきました。島になった部分に生息していた生物は、海によって大陸や周辺の他 の島に生息する近縁のものとの生殖的交流が断たれることで、独自の突然変異を蓄積し、あるいは島独自の環境への適応を遂げ、固有の種へと進化していきました。
一方、島になってからの経過時間が長くなるほど、 周辺の陸地で近縁種が絶滅してしまっている確率も上がり、そのため近隣地域に近縁種の見られない、いわゆる遺存固有種の割合も高くなります。沖縄諸島や奄美諸島では、リュウキュウヤマガメ、イシカワガエル、ア マミノクロウサギ、トゲネズミ類といった遺存固有種が多く見られます。これは、琉球列島の中でもこの地域がとりわけ早く島となり、その後、一貫して隔離されてきたことを示しています。
※「固有種」とは? ・・・世界中である地域にしかすんでいない種をその土地の『固有種』といいます。
※1:『琉球の自然誌』(1980,築地書館(東京))
※2:Geographic patterns of Endemism and Speciation in Amphibians and Reptiles of the Ryukyu Archipelago, Japan, with Special Reference to their Paleogeographical Implications (Res. Popul. Ecol. 40(2), 1998,pp. 189-204.)
亜熱帯海洋性の気候: 北緯27度の奇跡の森
琉球列島は、熱帯と温帯の間をつないでいる亜熱帯(北緯/南緯20~30度)に属する島々で、沖縄島北部のやんばる地域は、北緯27度付近に位置しています。 「亜熱帯」と聞くと、うっそうとしげる森を想像しがちですが、世界のほかの亜熱帯地域を見てみると、砂漠や乾燥した草原が広がっています。やんばるのような亜熱帯の森(多雨林)は、実は世界的に見ても希少なのです。 亜熱帯に森が発達しているのは、年間を通して暖かく、季節風や海流(あたたかい黒潮)の影響で雨の多い琉球列島のほか、台湾、東南アジアの一部やフロリダ半島の一部などに限られています。この亜熱帯海洋性気候の沖縄島は、夏は蒸し暑く晴れた日が多く、冬は時折小雨を交えた曇りがちの日が多くなります。やんばる地域では、那覇などの沖縄島南部に比べて降水量が多く、気温が低いのが特徴です。また、森林地帯では更に降水量が多く、沖縄島最高峰の与那覇岳では年3,000mm以上あります。